美味しいもの

福岡市の天神に広東料理セッションというお店があり、そこではM君という若いのに勉強熱心な調理師が働いています。

 

彼は昔の本を見てその料理を作り、感想とともにSNSに上げているのですが、何度か見たところ、自分の価値観で出来上がりの料理を評価している部分がありました。

 

中国料理の調理師なら皆さんお持ちだと思いますが、柴田書店の中国名菜譜という本があります。これは中国で1960年前後に出版された伝統料理のレシピ本で、この本のいいところは料理自体の美味しさが書いてあるところです。手元になかったので適当に書きますが、この料理はこってりとしておいしい、という感じです。

 

中国料理をしていると思うこと、中国で料理を食べていて思うことは、我々日本人の美味しさと中国人の美味しさは違うということです。中国で料理を食べて美味しいねと言っても、自分の物差しがずれていると、本当に中国人が味わって欲しかった美味しさとは違うところを評価しているかもしれません。特に中国で料理を食べると美味しくないというのは調理師が言ったら一番ダメなことで、中国人の美味しさを知る努力をしないと本当の中国料理は作れません。中国に限らず外国料理の美味しいか美味しくないかは日本人が決めることではないのです。(調理師の話です。一般の人は美味しい美味しくない自由です。)

 

最近当店ではテイクアウトの営業をしています。以前と比べ2割から4割ほど安く提供してるので、大人気ですぐに売り切れてしまいます。その時に美味しいと美味しくないの価値観の違いは調理師とお客様にも当てはまるのではないかと考えました。

 

だいたいの調理師は自分の思う美味しい味を味わってほしいと思ってます。出したらすぐ食べて、これをこの順番に食べてなどです。テイクアウトだと美味しくないというのはそういうことです。自分のイメージした味をお客様に評価してほしいという、調理師としては多数派の当たり前のことです。ではお客様から言えばどうでしょう。①すぐ②安く③美味しいものを食べたいという欲求を満たすのが当店のテイクアウトです。出来立てのほうが美味しいかもしれませんが、出来立てだと①それなりにお時間いただき②2割から4割高く③少し美味しさアップです。2割から4割美味しさアップしてるかはわかりません。

 

テイクアウトでのお客様の満足度100%だった場合、前の①と②の要素を含めたものです。後の③の少し美味しさアップがそれに変わる要素としてお客様に伝わって評価されるかはわかりません。お客様の求めている美味しい部分が、調理師の思いとは違うのかもしれません。美味しいの価値観の違いとはそういうところです。

 

最近わかって来ましたが、お客様は自分の美味しいものを食べたいと思っています。調理師が美味しいと思うものを食べたいと思っているわけではありません。うちは私が美味しいと思っているものをお出しする店ではありません。中国人が認める中国料理を目指して作ってます。お客様が美味しいと思うものとそれがうまく交わったとき、うちの店は少しだけ有名になるかもしれないと考えています。

 

ちなみにお客様が美味しいと思うものと経営がうまく交わったのが餃子の王将と思ってます。商売するつもりはないのでそこはまだ目指していません。