出来ないことを見つける
オーナーシェフと雇用されている側のシェフは何が違うのか。一つはオーナーシェフは出来ないことを探すことが仕事で、シェフはできることを探すことが仕事だと私は思ってます。
オーナーシェフは常にお客様と対峙しています。すべてのクレームは自分で受け止めなければいけませんし、お客様の要望に直接応えなければいけません。シェフはお客様の要望はもちろんありますが、オーナー側からの要求に対して何ができるかを考えます。オーナーはお客様ではないので無茶な要求はしません。オペレーション、原価、など考えて提案をし、そのなかで自分の選択肢を開陳する、それがシェフや雇われている人の仕事ではないかと思います。
オーナーになるとお客様の要望は多岐に渡ります。個人店の場合断るという選択肢は所得の減少に繋がりますのでとにかく努力してその差を埋めようとします。できることが多くなったから独立したのにいざやってみると実は出来ないことが山ほどある、それが現実です。
お客様のご要望に応えられなかったことはそのお客様だけではなくそれ以外の同じ好みのお客様を減らすことに繋がります。お客様の数を減らすと単価が低ければ成り立ちませんので高級な店になります。高級な店に堪えれないクオリティの料理しか学んで来なければそこで行き止まります。そうなると自分で成長するしかない。でも給料をもらっているときにもっと成長しておけば良かったのではないか。
今までは調理師が育たないのはオーナーシェフ(私)の責任が100%だと思っていました。でも今は半分従業員にも責任はあると考えてます。オーナーシェフや先輩の従業員が下の子に教えられるだけの能力や知識があること、下の子がそれを考えて理解できるだけの知識や向上心があること、その2つが同時に存在しなければ人は育ちません。
玉ねぎをすごく細く切ること、玉ねぎをしまう場所を覚えること、最初はできなかったことがができるようになっているという部分では同じです。でも後者は技術と違うのは分かると思います。玉ねぎの場所がわかった、テーブル番号を覚えた、それはその店にとって必要なことであって独立して必要になることではありません。上の人が仕事を教えてくれなくて、下の子に向上心がなければそういうことになります。技術は向上しないけど調理場のことは結構知っている、プロの調理補助にはなれます。
できることを探すことは簡単ですが、出来ないことを探すのは外からの刺激がないと難しいです。オーナーになってお客様から言われるよりは従業員のうちに見つけた方が得します。親方や先輩をよく見て自分の出来ないことを探して、それでも足りなければ本で勉強する、親方に材料を買ってきて差し出して新しい料理を教えてもらう、やり方はたくさんあります。
出来ないことを探すと一生退屈しません。調理師ってお金もかからず死ぬまで楽しく過ごせる生き方だと思ってます。寿命は短いです。